※ネタバレを含みますのでご注意ください。
2025年8月29日に公開された映画『8番出口』
地下通路で「異変」を発見した場合は引き返して逆方向に進み、「異変」がない場合は引き返さずにそのまま進み、8番出口から脱出するというルールの、同名ゲームを原作とした実写映画です。
ゲームには物語がありませんが、そこにうまく物語を重ねて映画として仕上げられています。
映像化はできたとしても、映画として、観客に認められる作品に仕上げるのは難しかったのではないでしょうか。
このようなマイナーな作風の映画が、なぜこんなに大ヒットしたのだろうと思いますが、どんな映画なんだろうという好奇心を掻き立てるのだろうと思います。
ゲームには『8番出口』の続編で、無限に続く電車内で、異変を見つけて対処して次の車両に移り、電車からの脱出を目指す『8番のりば』もあります。
映画も大ヒットしたため続編が作られる可能性大ですね。
映画では多くは語られず、あれはどうなったの?あれは誰?と気になるところも多いです。
解釈は観客に委ねられていると思いますが、考察したいと思います。
歩く男(おじさん)の正体は?どうなった?
主人公・迷う男が地下通路を進んでいるときに毎回向かいから歩いてくるおじさんこと歩く男。
映画の途中で、迷う男視点から歩く男視点の物語に切り替わります。
おじさんは、迷う男と同じように地下通路をループしており、同じく迷っていた少年に出会って一緒に8番出口を目指していました。
ループする地下通路の一部だと思われていたおじさんですが、実は迷う男と同じようにこの地下通路で迷っていた人でした。
そして、8番出口まで辿り着いていないのに偽物の出口が現れます。
これは異変であり、引き返さなければなりませんが、歩く男は少年の静止を振り切って、偽の出口から出ていってしまいます。
心のどこかでは異変だと気づいていたのかもしれませんが、もう精神的に出口の誘惑に抗うことができなかったのだと思います。
偽の出口から出てしまったためにループする地下通路の中に取り込まれてしまったのだと思われます。
そして、迷う男の前に地下通路の一部として何度も繰り返し出現することになったのでしょう。
原作ゲームでも、引き返さずにこの偽物の出口から出てしまうと、ループせずにゲームオーバーとなってしまいます。
つまり、おじさんは迷う男が地下通路に迷い込む前に、地下通路に迷い込み、地下通路の一部として囚われてしまったのです。
同じように、おじさんがループしていたときに出現していた女子高生風の女性も、以前に地下通路に迷い込み、地下通路の一部として囚われてしまった人なのだと考えられます。
映画の途中で、迷う男視点から歩く男視点の物語に切り替わったのは、少し前の時間に戻り、歩く男が何者なのか、どのような経緯で人間ではなくなってしまったのかを見せたと考えると自然です。
歩く男はおそらくサラリーマンで、女子高生風の女性の異変から、現実世界では単調な日々を繰り返していたのだと思われます。
それが地下通路の一部としてループし続けることとリンクして描かれているのだと思いました。
少年(男の子)の正体は?
少年が初めて迷う男の前に現れたとき、迷う男は異変だと思って引き返しましたが、出口番号が0に戻ってしまったことから、少年は異変ではなく地下通路の一部ではなかったことが分かります。
また、おじさん(歩く男)が偽の出口から出ていってしまうまでは、一緒に脱出を目指していました。
ということはおじさんや迷う男と同時期に地下通路に迷い込んでしまった人間かと思いますが、通路に現れたある女(迷う男の元彼女)を「ママ」と呼んで駆け寄ろうとします。
現実ではある女は迷う男との子を妊娠しているはずで、子供はまだ生まれていません。
つまり少年は迷う男とある女との子の未来の姿だと思われます。
この地下通路は迷い込んだ人間の心理や抱えている問題が反映される場所のようです。
映画では語られていませんが、迷う男の東日本大震災のトラウマを抱えていることが小説版では語られているようです。
このトラウマが津波の「異変」を再現したのでしょう。
そもそも迷う男が地下通路に迷い込んだのは、電車で泣き出した赤ちゃんとその母親に対して怒鳴っていた男を見て見ぬふりをしたこと、そして元カノから妊娠したと告げられたことがきっかけでした。
地下通路で迷っていることと子供の父親となるかという迷いがリンクしていたのだと考えられます。
そして少年は迷う男の子供の未来の姿であり、迷う男が元カノとは別れて子供の父親にならなかった世界線の未来の子供の姿だと思われます。
ただ、なぜまだ存在しないはずの迷う男の子供が、また、関係のないおじさんの前にも現れたのか。
それについては説明がつきません。
この地下通路は他の迷い込んだ人間の影響も反映されるのかもしれません。
最後はどうなった?
最後は8番出口から地上に出られるのかと思いきや、8番出口は下に降りる階段でした。
そして迷う男は地上には出ず、また電車に乗り込みました。
さらに地下通路に迷い込む前と同じ、母子を怒鳴る男が現れます。
どうやら何もできずに後悔した過去に戻ったようです。
地下通路から脱出できたのは、迷う男に迷いがなくなったから、つまり父親になることを決意し覚悟を決めたからだと思います。
ラストは母子を助けるために動きだそうというところで終わりましたが、その覚悟を表現したものでしょう。
電車の中で母子を怒鳴る男は「異変」であり、それに対処する、これは車両の中の異変を見つけて対処するという、ゲームの続編『8番のりば』の要素を取り入れているのかもしれないと思いました。
迷う男は、地下通路のループを経て成長し、ある女(元カノ)との子供の父親になるのでしょう。
迷う男を通して、自分の悩みや葛藤、これからの選択を考えさせられる映画だったと思います。
電車の中で母子を怒鳴る男がいたらそれに対処することが正しい選択だろうと思いましたが、誰もが動けることでもないとも思いました。
映画ではどのように対処したかは描かれていません。
人それぞれにできることをすればいいし、たとえ自分は動けないかもしれないと思っても、それが正しい選択なんだと思えること自体が大事なことだと思います。
ぜひ続編『8番のりば』も映画化してほしいですね。