※ネタバレを含みますのでご注意ください。
『パラサイト 半地下の家族』のポン・ジュノ監督の最新作『ミッキー17』(Mickey 17 ミッキーセブンティーン)(2025年3月28日公開)、おもしろかったですね!
おそらく日本人なら特に気になったであろうシーンが、捕らわれたクリーパーの赤ちゃんのもとにクリーパーたちが集まってくるところではないでしょうか。
スタジオジブリ、宮崎駿監督の『風の谷のナウシカ』(1984)のクライマックスで、傷付けられ吊り下げられた王蟲(オーム)の子に誘われてオームの大群が押し寄せてくるシーンとそっくりでしたね。
クリーパーの見た目も王蟲に似ていますが、クリーパーの赤ちゃんが鈎で吊り下げられたシーンはまさにオマージュでした。
ポン・ジュノ監督はクリーパーについて、
「クリーパーは様々なインスピレーションが混在しています。デザインそのものは、クロワッサンから着想を得たもので、パンが出発点です。動きに関しては、様々なアイディアが組み合わさっています」
「クリーパーは三種類ですが、ジュニアクリーパー、ベイビークリーパー、そして女王蜂のように一匹だけのママクリーパーがいます」
「ジュニアクリーパーがボールのように丸まっていく動きが登場します。それはアルマジロを参考にしています」
「『風の谷のナウシカ』で王蟲が群れになって突進するシーンも、インスピレーションの源だったと言えます」
「クリーパーが群れになって絡み合う姿は、アラスカのトナカイの動きのパターンがモチーフとなっています。動物ドキュメンタリーを観ると出てきます。サークルの中心部分に子どものトナカイを置いて、群れが時計の反対周りにらせん状を描いていく荘厳でスペクタクルな映像があります」
「宮崎駿監督はいつも生態系や自然、環境に対するテーマを描かれていますが、私も大きな関心を持っているテーマですので、動物やクリーチャーを表現する際には、宮崎駿監督の作品は尽きないインスピレーションの源になっていると思います」
https://press.moviewalker.jp/news/article/1252938/
とインタビューに答えています。
原作ではムカデのようなものでしたが、それでは映画に合わないということでデザイナーにパンのクロワッサンからデザインをしてもらったそうです。
パンから生物のデザインを考えようなんて、不思議でおもしろい着想ですよね。
そしてクリーパーのデザインができてから、王蟲に似てるなとなって、オマージュしようとなったんですね。
さらに、クリーパーの脚について、
「複数の脚を持つ生物は、走るときにとても不思議な動きをします。リズムが妙なんです。専門用語ではウォークサイクルといいますが、これを作るのが、クリーチャーを表現する上で最も重要な基本です。ジュニアクリーパーが勢いよく走るとき、ウォークサイクルをどうするべきか。短い脚がいくつもあって、それらを走らせなければなりません。レファレンス先を探しているなか、CGチームのほうから『となりのトトロ』に出てくるネコバスのアイディアが出ました。あのネコは足が4本ではなく、何本もあるんです。『となりのトトロ』ではその足が絶妙なリズムで動く様子が見事に描写されています」
と語っています。
https://press.moviewalker.jp/news/article/1252938/
『風の谷のナウシカ』の王蟲だけでなく、『となりのトトロ』のネコバスの要素も加わっているんですね。
ポン・ジュノ監督だけでなく、映画製作に関わる方にとってジブリ作品、宮崎駿監督作品は大きな存在であり影響を受けていることが伝わります。
別のインタビューでは、
「クリーパーの場合は当初、クロワッサンをベースにしていたんです。そこにアルマジロやダンゴムシの要素を加えたのですが、作業を進めているうちに、『風の谷のナウシカ』に登場した王蟲に似ていることに気づきました。しかし、意識的に王蟲を避けようとはしませんでした。こういうアイデアに到達できたことが私にはうれしかったんです。『もののけ姫』の動物たちもそうでしたが、宮崎監督が描くクリーチャーには存在感や美しさがあり、人間よりも威厳を持っているんです。宮崎監督の作品から学んだのは、そのような着眼点でした。『ミッキー17』のクリーパーも、同様の存在にしたかったんです」
https://press.moviewalker.jp/news/article/1256106/
と答えています。
クリーパーの見た目や群れになって突進してくるシーンのような表面的なことだけでなく、クリーチャーが人間よりも威厳を持っているというところが、『風の谷のナウシカ』を始めとした宮崎駿監督作品との共通点であり、本質的なオマージュだったんですね。
考えてみれば『ミッキー17』に登場する人間のキャラクターたちも、ジブリ作品に登場するキャラクターたちとの共通点があるように思えました。
ミッキーの恋人のナージャがティモを殺そうとするシーンは、かなりナウシカを彷彿とさせますよね。
ポン・ジュノ監督作品の『Okja/オクジャ』にもスタジオジブリ作品からインスピレーションを受けたシーンがあります。
主人公のミジャがオクジャのお腹の上で昼寝をするシーンは、『となりのトトロ』のメイがトトロのお腹の上で寝てしまうシーンからインスピレーションを受けています。
『Okja/オクジャ』はNetflixで配信されていますのでぜひ観てみてください。
ポン・ジュノ監督の『ミッキー17』に登場するクリーパーが宮崎駿監督の『風の谷のナウシカ』に登場する王蟲のオマージュであることについてお伝えしました。
ポン・ジュノ監督や映画のクリエイターにとってジブリ作品、宮崎駿監督作品が大きな影響を与えていることが分かります。
初めから真似をしよう、オマージュしようとしているわけではなく、映画製作の中で自然発生しており、さらに似ているからやめておこうとはせずに受け入れるところが本物のオマージュだと思いました。
また見た目やシーンだけでなく、本質的なところにも共通点があることに気づきました。
オマージュについて、より深い視点を持てた気がします。